泉州尺八工房には、Type-A、Type-B、そしてType-Cという3つのモデルがあります。
その中でType-Cは、少し特別な存在です。
一見すると、Type-AやType-Bとは異なる方向を目指した尺八に見えるかもしれません。しかし、Type-Cが生まれた背景には、AireedXというまったく新しい尺八の開発と、そこで行ってきた内部構造の研究があります。
そして、その研究から私たちが改めて見いだしたのは、意外にも「古典的な尺八が求めてきた理想」でした。
Type-A ―― 現代的な表現のための尺八
まず、泉州尺八工房のType-Aについて少し触れておきます。
Type-Aは、私自身が長年尺八を演奏し、さまざまな演奏家の意見にも耳を傾けながら、約40年の歳月をかけて作り上げてきたモデルです。
大きな特徴のひとつが、指穴の大きさです。大きめに設計された指穴によって、音の立ち上がりが素早く、反応の良い楽器になっています。
音質的にも倍音成分が豊富で、澄み切った音色が特徴です。レコーディングエンジニアの方々からも、その音について高い評価をいただいてきました。
私自身は、Type-Aを「現代的な表現に向いた尺八」と考えています。音の立ち上がりが速く、奏者の意図に対して楽器が素早く反応する。現代の音楽やレコーディングなど、尺八の音を一つの音素材として積極的に扱いたい場面でも、その特徴が生きてきます。
Type-B ―― Type-Aを、より扱いやすく
Type-Bは、Type-Aを基本にしながら、指穴を小さくしたモデルです。
Type-Aの音や性能には魅力を感じながらも、大きな指穴や指の間隔に難しさを感じる演奏家もいます。そこで、より多くの方にType-Aの考え方を体験してもらえるように設計したのがType-Bです。
つまりType-Bは、Type-Aを演奏者の身体的な違いに合わせて展開したモデルと言えるでしょう。ところが、その後の研究によって、私たちはさらに別の可能性に気づくことになります。
AireedXの開発が、Type-Cにつながった
AireedXは、竹とは異なる素材で尺八を作ることから始まった、新世代の尺八です。
竹製尺八の場合、一本一本の竹そのものが違います。そのため、尺八の内部構造を考えるときにも、素材である竹の個体差が大きな要素になります。
一方、AireedXでは内部構造をより自由に設計し、さまざまな条件を検証することができます。その開発と研究を進める中で、私たちは大きな発見をしました。
尺八は、指穴の大きさや位置だけで決まるものではない。
内部構造を適切に設計することで、指穴の条件が変わっても、楽器全体として良いバランスを作ることができるのです。
この研究成果を、今度は竹製尺八にフィードバックしてみました。そこで生まれたのがType-Cです。
Type-C ―― 優しく、そしてストレスなく鳴る
Type-Cは、Type-AやType-Bに比べて指穴が小さく設計されています。そのため、倍音成分は控えめで、音色はより穏やかです。音の立ち上がりもゆったりしています。
しかし、これは「反応が鈍い」ということではありません。むしろType-Cでは、古典的な尺八で培われてきた奏法を、そのまま自然に使うことができます。
そして最大の特徴は、すべての音を、むらなく、ストレスなく発音できることです。
尺八には、音によって鳴りやすさや鳴りにくさがあったり、音域によって吹き方を変えなければならなかったりする難しさがあります。Type-Cでは、AireedXの開発で得られた内部設計の研究成果を取り入れることで、こうした音ごとのストレスをできるだけ減らしました。
音を出すために楽器と格闘するのではなく、奏者が音楽そのものに集中できる。それがType-Cの大きな特徴です。
「C」はClassicのC
Type-Cという名前には、もう一つ意味があります。
Type-Aの指穴を小さくしたモデルがType-Bです。
しかしType-Cは、単純に「Type-Bの次のモデル」という意味で名付けたものではありません。
この「C」には、Classic Typeという意味を込めています。
AireedXという新しい楽器を開発し、そのために内部構造を研究した。
その結果として見えてきたのが、古典的な尺八が長い間追い求めてきた、自然で無理のない発音だったのです。
つまりType-Cは、
新しい楽器を作ったからこそ、古い尺八の理想を改めて理解することができた。
そんな逆説の中から生まれた尺八です。
泉州尺八工房は「現代的な尺八」だけを作る工房ではありません
泉州尺八工房は、これまでType-Aなどのモデルによって、現代的な音楽表現に適した尺八を作る工房として知られてきました。
確かに、私自身が現代的な音楽を演奏してきたこともあり、そうした方向への研究は工房の大きな柱の一つです。
しかし、それだけではありません。
古典音楽を演奏する方にとっても、楽器による余計なストレスは少ないほうがいい。
伝統的な奏法を大切にしながら、音の一つひとつが無理なく発音でき、奏者が音楽に集中できる。
それもまた、尺八という楽器を進化させることだと私は考えています。
だからこそ、AireedXという新しい楽器の開発も、単に「未来の尺八」を作るためだけのものではありませんでした。
新しい素材、新しい設計、新しい考え方で尺八を研究したからこそ、伝統的な尺八についても、これまでとは違う角度から見直すことができた。
その成果が、竹製尺八のType-Cに生かされています。
Type-Cは、古典と革新のどちらかを選んだ楽器ではありません。
新しい研究によって、古典の中にあった理想をもう一度見つけ出した尺八です。
伝統を守るために、昔の形をそのまま残す。
それだけが伝統ではないと私は考えています。
その楽器が本来持っていた可能性を探り、演奏する人のストレスを減らし、より自然に音楽を奏でられるようにする。
その先に、これからの尺八があるのではないでしょうか。
Type-C。
それは、AireedXから始まった新しい研究が、もう一度竹製尺八へと戻ってきたことで生まれた、泉州尺八工房の「Classic Type」です。