2023年1月11日 三塚

伝統と革新

伝統と革新

こんなタイトルで昨年コンサートが開催された。

そこで僕が作ったAireedX(メタル尺八)だけの5重奏が披露された。

僕は会場には行けなかったが、録音を聞くことは出来た。

演奏者は半月前ぐらいに楽器を渡され、それほど多くはないリハーサルだったにも関わらず、非常に整った音程感と音質感でクオリティーの高い演奏をしてくれていた。

プロ演奏家なのだから当たり前・・・と思うかもしれないが、尺八の形状はまだ定まっていない。

それぞれの流派や師匠の癖や試奏に合わせた尺八が多く、それらを使わずに全く製作者が違う尺八を持たされて演奏するなど、少なくとも30年前には考えられなかったことだ。

それが、あのように普通に演奏されていることが、実は僕にとっての革新だった。

これには長い研究と歴史がある。

いろいろな歌口の形があり、どれかに慣れるとほかが吹けなくなる・・・そんな尺八ばかりだった頃に最も多くの人間に適した歌口形状はないものか?と考え、多くの歌口サンプルを作り、どれが評価が高いかなどを探る調査を行い、およその傾向を掴み、それらを分析研究して現在の泉州尺八工房の唄口の形状を作り出した。

その唄口を元に内部構造を研究し、効率がよく、音程も正確に出しやすい内部構造を作り出し、それを泉州尺八工房の現在のType-Aとして販売を続けていた。

それらはプロの間というよりもこれからプロになる、なろうとしている若い演奏家や、アマチュアの多くの演奏者の間で話題となり、30年後の今多くの尺八工房の歌口形状が泉州タイプに近くなっていることに気がつく。

以前は展示会を開いても音すら出せない人が少なくなかったが、今はほぼ誰でも「良くなる!」と言ってくれる。これはある意味唄口の標準化に成功しているのであり、この唄口形状は「革新」と言えるものだ。

そしてその唄口形状を元に制作された内部構造も革新なのだ。

歌口形状が決まらない限り、内部構造を特定はできない、なぜなら、唄口の開口部の大きさで全体の音程と音程バランスが決まる、つまり多くの人が有る許容された範囲で歌口に口を当てられない限り、正確な音程を持った楽器を作ることは出来ないのだ。

その唄口を定めるために30年を要し、2020年満を持してついにその経験すべてを数値に置き換え、一定の外形形状と内部形状を持ったAireedXの設計を行い製品化した。

その楽器がプロの組織であるJSPNのコンサートで採用され、「伝統と革新」の中の「革新」として披露されると思っていたが、実はそうではなくパンフレットでは「ベークライト、木、プラスティック、金属」などの非竹製の楽器も有る・・・という程度の紹介だった。

どちらかというと多孔尺八(本来5つの穴しか無いが6~9個穴を開けた尺八)やキーをフルート並みに装着したオークラウロなどのほうが革新として取り上げられていたように感じた。一曲一曲演奏についての解説や感想を進行役が述べていたが、AireedXによる5重奏のときにはなんのコメントもなかった。

でも考えてみると作った方はそれなりに考え抜き、革新と思いながら作ってきたが、それが革新なのか駄作なのかを判断するには時間を要する、つまり「あれは革新だった」という判断しか出来ないのであり、AireedXはまだ革新なのか駄作なのかも判断できない楽器なのだと改めて認識させられたコンサートだった。

それでも、僕は嬉しい。

今の演奏家たちは、演奏しようと思えばAireedXを演奏できる様になっているということ。

唄口の標準化に成功していること、演奏家は自分たちの使い込んだ楽器が有るので、そう簡単には新しい楽器に取り替えられないということも知っている。

僕自身は「割れていないかな!」などと心配することなく、いつでも最高の演奏ができる楽器を手に入れることができた。

そして設計図はコンピュター制御で動く制作機械のデータとして存在し、僕がいなくなっても全く同じものが作られる。

この初代AireedXは第1段階として、今後マイナーチェンジを繰り返す(すでにやっている)そしてそれは泉州尺八工房の尺八にフィードバックされ、そこでも最高を目指すことができる。

革新がいつしか伝統となる・・・そのことを表したとすれば、素晴らしいテーマのコンサートだった。

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